「けーし風」第5号(1994.12)「特集 まーかいが、うるま島 山ヌハギーネー、海ヌハギーン」

2015年10月03日/ 本のこと

「けーし風」第5号の特集は「まーかいが、うるま島 山ヌハギーネー、海ヌハギーン」です。

けーし風005

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特集にあたって(浦島悦子)

太平洋をふちどる花飾りのようにつらなる琉球の島々。
悠久の時を経てくり拡げられた壮大な生成のドラマが島を形づくり、亜熱帯の太陽と豊かな雨、島々の裾を洗う黒潮が、うっそうと繁る緑の森林と珊瑚の海をはぐくんだ。
島は風を孕み、年ごとに訪れる台風が島々を浄化する。

小さな島に驚くほどの多様性をもっていきづく、いのちの営み。
人々もまた、その一つらなりのいのちの一部として、島に抱かれ、島とともにいく時代をも生きてきた。

山に分け入り、海に出て日々の糧を得、山や海の神々と対話しつつ、小宇宙としてのシマをつくりあげてきた伝統的な人々の暮らしは、
 唐の世からヤマトぬ世
 ヤマトぬ世からアメリカ世
 ひるまさ変わたる くぬウチナー
と唄われる歴史の荒波に翻弄され、圧政や収奪、戦争、米軍占領をもくぐりぬけながら、なお、確かな手ごたえをもって連綿と受け継がれてきたのだった。

山と川と海が織りなす絶妙のバランスの上に成り立つ美しくももろい島々の自然と、人々の伝統的な暮らしを、米軍の"鉄の暴風"もなしえなかったほど破壊し、変貌させたのは、1972年、沖縄の「日本復帰」以降、島のすみずみにまで撃ち込まれた"カネ"という弾丸であった。

遅れた産業基盤、社会資本の整備を「本土なみに」というかけ声のもと、沖縄振興開発特別措置法にもとづく国からの高率補助金(1991年終了の第二次振興開発計画までに3兆4千億円。現在は第三次振計に入っている)を使って、沖縄の都市基盤、農業基盤は急速に「整備」され、道路や港湾、空港なども見ちがえるほど「立派」になった。

私たちはいま、あり余るモノに囲まれた便利な生活をあたりまえのように送っている。
しかしながら、それと引きかえに私たちが失ってしまったものはあまりにも大きい。

雨が降るごとに真赤な血の涙のような赤土を流しつづけるやんばるの山々。
流れ出た赤土で生き埋めにされた珊瑚の海。
「山ぬはぎーねー、海ぬはぎーん(山が荒廃すれば海も荒廃する)」とウヤファーフジ(祖先)が警告してきたとおり、山と川と海からいのちの輝きが失われた。
いくつもの山を削り整然と造成された土地改良区に人の姿はなくススキが生い茂り、沿岸漁場は瓦礫の山と化した。
保水力を失った山は水不足を年々深刻化させ、"赤い海"が沖縄観光に影を落とす。

神々の拠りしろであり、人々の魂の拠りどころであった聖域さえも開発の波に呑みこまれ、大人も子どもも、落としてしまったマブイ(魂)を捜してさまよっている。
「全国最低の県民所得」を返上せよ、という叱咤激励に代わる未来への手がかりを、私たちはどこに求めればよいのだろうか。

島が泣く。
血の涙を流して島が泣く。
風土が萎えれば私たちの魂もまた萎える。
まーかいが(どこへいく)、うるま島。
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Posted by ブックスマングルーブ店長 at 16:25│Comments(0)
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