越境広場 創刊0号 特集「〈沖縄&アジア〉交差する記憶と身体 / 阿Qと琉Q」(2015.3)

2015年10月11日/ 本のこと

「越境広場」創刊0号の特集は「〈沖縄&アジア〉交差する記憶と身体 / 阿Qと琉Q」です。

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創刊の辞「沖縄を交差点として」

この度、予てから準備を進めてまいりました。
沖縄を取り巻く状況的な課題と向き合いこれからの沖縄と世界を模索する総合雑誌「越境広場」を創刊する運びとなりました。
創刊に当たり、ここに、雑誌刊行の趣旨を記しておきたいと思います。

戦後70年が経過しましたが、世界はテロとの紛争の絶える間はなく、暴力的に進行する資本のグローバル化は、政治経済ばかりか人々の生活観や思考を支配するまでに浸透し、一部の既得者のみが利権を貪る極端な各社社会が構造化しつつある中、国民国家間の露骨な覇権争いはいよいよ激しさを増しています。
そのような現実を前に、世界の政治、芸術文化、思想を巡る状況はこれまで以上に厳しく、予測不可能で、不透明、混沌とした袋小路に嵌り込んでいくように見えます。
特に、地政的に大国の狭間に位置する沖縄が、基地問題や領土問題をはじめとして、東アジアにおける国家間の緊張関係から理不尽にも危機的な状況を強いられている現在、沖縄の歴史的体験を自覚的に表現し思想化することは、この時代を生きる私たちにとって抜き差しならない重要な課題だと思われます。

とはいえ、沖縄という場所で沖縄を表現していくにはいくつかの厚い壁や深い陥穽があります。
当面危惧される問題のひとつは、沖縄の差別的歴史と現在の政治的状況への危機感のあまり一方的な被害者意識のみを声高に叫ぶ、という硬直した思考に陥ってしまうことです。
そのため、権力者に対する抵抗の表現であったはずの言葉がぎゃくに他者を傷つけ、挙句に排除する、という事態を招いてしまうことがあり、また、過剰な自己防衛のための短絡な表現が横行するという事態も散見され、それらの表現がかつて権力の政治がマイノリティの人々に対して行なってきた暴力にも似た形でひと括りにされた集団や個人に向けられる、という行為を誘き寄せてしまうことです。
そのような無自覚な「正義」の言葉がまかり通る実態が、現在の沖縄の言説空間の複雑さや多様性を覆い隠し、単線的で一方的な表現の狭隘さを露呈しているようにも思われるのです。

例えば、沖縄の過去の抵抗運動のなかで連帯のためのスローガンであった「島ぐるみ」や、今回の知事選における「オール沖縄」は、頭ごなしの抑圧的権力の前に沖縄の人々がそれぞれの立場や事情を越え結集するためには、ある麺、必要かつ説得力のある言葉でした。
しかし、抵抗運動として力を発揮したイデオロギーの言葉がそのまま対集団や個人に向けられるとき、かけがえのない個人であるはずの他者を集団としてひと括りにし、「批判」し、排除する、という側面があることに私たちは敏感であらねばならないと思うのです。
最近、声高に謳われるようになった「沖縄的アイデンティティ」という表現も、抵抗の言葉としての意義とは裏腹に似たような危険性を孕んでいるように思われます。
さらに、触れることが困難な複雑な事態として、構造的に与えられた利権には無自覚なまま被害者を代弁する、という欺瞞的な「正義」の言葉がそれらしくふるまわれる場面に出会うことが多々あることです。
これはとても微妙な問題ですが、沖縄内部における言説空間の複雑に屈折した実態を私たちは看過することなく注意深く見つめる必要があります。
それら雑駁な表現が通りよく「正当化」され思想の言葉として語られるとき思想的表現は先細りになるほかはないと思われるからです。

そのような思考の陥穽を避けるため、私たちに求められているのは、政治的抵抗のメッセージを踏まえつつも、一方的な「正義」の言葉だけを声高にふりかざすのではなく、困難な状況を直視し乗り越えるための新たな可能性を孕む、しなやかで、強く、広がりのある表現を根気よく丁寧に紡ぎ出すことではないかと思われます。
その表現の可能性を、先人の深い歴史体験や著述や語りを学びの手引きとし、貴重なその遺産をひと握りの権威者の特権物とすることなく、より幅広い視野で「学びなおし」ながら、これからの時代を担う若い世代に受け渡すこと、そのことが、今、強く求められているのだと思うのです。

その課題と正面から向き合うため、私たちは、思索の源泉を沖縄の歴史体験から汲み取ることを前提にし、沖縄を活動の起点としながらも、沖縄を越え世界とつながる思想を獲得するため、近隣の、台湾、韓国、中国、そして「日本」など、東アジアとの交流を広げ、つながることの重要性に思い至りました。
そこで共通する問題意識を持つ仲間と集い、それぞれに異なる歴史や文化状況、または複雑に絡む加害と被害の歴史体験をもつゆえの行き違う立場があることを認め合いつつも、孤立せず、孤立させず、つながりを求め合い、粘り強い思索を深めてゆくこと。
めまぐるしく流動化する政治の動きに安易に妥協することなく、短気にも悲観的にもなり過ぎず、そのときどきの状況への見極めと判断を再認していくこと。
そのために、国家権力が引いた領土の境界に自足せず、境界を越え、お互いに交差し、往還し、柔軟な想像力を身につけること。
そして、そのための場を創り出す必要があることを痛感した次第です。

以上の問題意識から、私たちは、思索と表現のトレーニングの場として雑誌の発刊を企画しました。
そこで紡がれた表現が時代の困難を越えるエネルギーとなり、さらに次の時代へと開かれ、いくつもの新しい出会いを促す活字媒体としての役割を果たすことができますよう、遥かな願いを込め、ここに「越境広場」を刊行いたします。

(文責・崎山多美)
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Posted by ブックスマングルーブ店長 at 12:00│Comments(0)
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